かつて秋田県には毛細血管の様に森林鉄道が敷かれ、伐り出されたブナなどの原木を運んでいました。由利本荘市の森林鉄道(直根林道)は旧矢島営林署の管轄で、昭和13年に下直根(しもひたね)の直根貯木場を起点に鳥海まで一旦尾根をトンネルで越え、その後子吉川沿いに遡上し袖川を経由し、百宅(ももやけ)までの14.4kmが開設されました。時期から戦後の復興に木材が使われた事が伺えます。その後昭和40年に廃止になるまで、森林鉄道は百宅川に沿ったルートと法体の滝の上流付近から沢づたいに枝分かれし、鳥海山の山腹に18.4kmにわたり広がっていました。鳥海山ろく線が全線で23km ですから、規模の大きさが伺えます。
今回は、起点側の直根から袖川まで探索してみました。この区間は、林道となっていますが、積雪期は通行ができなくなります。前日に初雪が降り白くなってしまいましたが、安全を確かめ地元の方にご案内いただきました。
2013年3月に統合され廃校となる直根小学校。この写真の右手に貯木場(土場)が広がり、森林鉄道の起点となっていました。運ばれた原木は直根でベニア板などに加工され索道や自動車で矢島まで運ばれていたそうです。
直根から次第に高度を上げる森林鉄道跡を振り返る。軌道敷は幅2mだったので、林道となった際に拡げられた様です。
森林鉄道跡から望む猿倉の集落。はるか下を清らかな子吉川が滔々と流れます。
Ωループでさらに高度を稼ぎます。最急勾配は39パーミル、最小曲線半径は15mと鉄道としては非常に厳しいものでした
すぐ脇に大きな送水管が通っており、列車が走っていた頃は絶好の撮影スポットだった事でしょう。
そして現れる直根第二隧道入り口。トンネルの闇の中に小さな白い点。それが626m先にある出口です。
ほんのわずかな間に雪が降りだしました。
長いトンネルの中は真っ暗、漏水で足元も悪いです。車での通行をお勧めします。内部は一部コンクリート巻き、一部吹き付けですが中央部は自動車の行き違いのためか拡幅され木板の壁となっていました。
トンネルを抜けるとぽっかりと視野が広がります。ここには袖川の集落がありましたが発電所の自動化とともに廃村になりました。分校跡や田の跡に葦が生い茂っています。
トンネルをくぐるまで、はるか下にあった子吉川が森林鉄道跡のすぐ脇を流れます。山の中とは思えない豊富な水量。河原の石も無く、森と川が接しています。この先発電所の所で林道は終点となっていますが、廃線跡は百宅まで続きます。途中は崩れているとの事で通行できないそうです。
こうして見ると、広大な貯木場、絶景の見晴らし、Ωループ、長いトンネル、集落(跡)など見所が沢山ある路線だったようです。百宅から先、法体の滝から玉田渓谷に沿って上るルートはまた格別な景色だった事でしょう。
ご注意
この林道は通行もほとんど無く、除雪もされません。野生動物も出没しますので11月から5月までの積雪時には立ち入らないように願います。また、単独行動は控え、自動車での通行をお勧めします。
参考資料
近代化遺産 国有林森林鉄道全データ ㈶日本森林林業振興会秋田支部・青森支部編 秋田魁新報社